完勝の分析。

うだうだと忙しくてあまりに五輪の話に触れていなかったわけだが
これだけは別と女子マラソン


終わってみれば野口の完勝。
そう言ってもいい内容だったと筆者は感じている。


野口は今回のレースで25kmと27km、自力でペースを変え
完璧なスパートを決めた。勿論それが勝因であるのは間違いない。
それと共にもう一つの勝因としてスパート後のスピードの持続力が
あったことも注目すべきであると考える。


かつて筆者はシドニーで金を取った高橋のレースを評して
「高橋の強さは3度ペースを自力で変えることが出来たのが勝因」と
書いたことがあった。
シドニーの高橋の時はリディア・シモンが2度目のスパートで付いてきた。
勿論それは決定的な差を生むためのスパートではなかったから。
そして、それを引き離すために必要だったのは第3のスパートであったわけである。
#あのサングラスを外した有名なシーンのことである。


今回、野口の2度目のスパートに誰も付いて来れなかった。
多くのマスコミでも苦手と取り上げられていた
後半の下りまでに絶対的なリードを築いて逃げ切るために
誰も付いて来れないようなスパートを撃つ事が作戦は見事に嵌った。
しかし、2度のスパートだけで勝てるほど今の五輪マラソンが甘いものではない。
実際、ヌデレバが残り10kmで軽快なピッチで追いすがってきた。
そこで、高橋の3度目のスパートの如く、最後のプラスアルファとなったのが
鍛えられた筋力によって支えられた衰えぬストライドを生かした持続力だったと見る。
秒差以上に強い勝ち方だった。本当に素晴らしい金メダルである。


他の選手にも言及しておこう。
ヌデレバは前哨戦で不調を伝えられていたのだが、
流石は世界選手権を制したランナー。最後素晴らしい追い上げを見せた。
しかし、それを野口の実力が今回は上回っていたことは間違いない。
土佐は粘って最後10kmの下り勝負だったのだろうが、
このメンバーでは誰かが必ずその手前の上りで仕掛ける展開になるだろう。
その時点で勝ちは厳しかったはず。5位は予想の範囲内。順当だろう。
坂本は実のところ隠れ本命だった。
#一応レース前、友人との電話では本命野口、対抗坂本と言っていた筆者。
上りで付いていければ最後の下りでカウンター気味に大阪で見せた高速ラップを
仕掛けて一気に抜け出せると踏んでいたのだ。
しかし、そこまでの余裕はまだ無かったということか。
オカヨ、アレムといったアフリカ勢も爆発力に欠け、
銅のカスターはいかにもアメリカ人ランナーらしいイーブンペースで走って
ばてた前の選手を拾っていくレースで3位まで来た。
立派なのは立派だがこれで五輪を勝つことはほぼ不可能だったということだ。


そしてラドクリフだが、過保護なレースで記録を出したところで、
今回の五輪で勝つために必要な「環境(特に暑さ)」「細かいアップダウン」
「急激なペースの変化」この3つへの適応力に欠けていたということがもろに出てしまった。
#それを今回一番高いレベルで兼ね備えていたのが野口なのは言うまでも無い。
勿論、それを軽く飛び越えて圧勝してしまう可能性も戦前は考えられたが
終わってみればやはりこうなってしまったかという印象である。